公社の賃貸ブログ

インタビュー:公社の外壁塗装「住んでいる方や地域の方の気持ちが和らぐ色彩を心掛けています」

2024.04.15

団地の風景

現在まで、公社の4団地の外壁塗装の色彩設計を手掛けているサッコデザインオフィスの鈴木章子さん。2024年VOL.1の「公社の賃貸」の表紙にもなっている「藤沢西部」。こちらも鈴木さんが手がけた色彩設計です。今回、関内駅近くの事務所にお話を聞きに行ってきました。



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デザインや建築、色彩についていつから興味を持ったのですか?

今思えばですが、小さい頃から色には興味があったと思います。実家の近くに団地があり、その団地が何年かごとに壁の色が変わったのを今でも覚えています。子どもながらに「この色は良いな~」とか、「なんでこの色を塗っちゃったの?!」とか勝手に思っていました(笑)
絵を描くことや工作も好きで、自分が欲しいリカちゃんハウスを買ってもらえなくて、お菓子の空き箱を集めて、形を変えたり、折り紙を貼ったりして、自作のリカちゃんハウスで遊んでいました(笑)
平塚で生まれ、6歳で伊勢原へ。高校は平塚の学校に通いました。のどかな田舎で育ち(笑)、デザインとは無縁でした。手に職をつけたく、また福祉施設を営む親戚がいたこともあって、これから高齢化が進む日本で福祉関係の仕事をしたいと思い大学では社会福祉を学びました。ただ、就職活動をする中で、自分の中で「本当に自分がやりたいこと」がわからなくなって、急遽メーカーに就職することになりました。

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福祉志望からのメーカー勤務。その後デザイン関連の仕事に興味を持ったのですか?

大学を卒業して、住宅設備機器・建材メーカーに入社しました。事務職採用だったのですが、資格を活かして働ける部署があると知り、「インテリアの資格を取るので異動させてください!」と上司に掛け合い、夜間のインテリア専門学校に通いました。
無事、専門学校を卒業し、インテリアコーディネーターの資格を取得、住空間スペースプランニング課という部署に異動しました。その後、2級建築士も取りたくなりました(笑)
その後、結婚し、出産。会社は退職しましたが、退職後、2級建築士の勉強をして無事、資格を取ることができました。子育てもあり、専業主婦をしていましたが、何か仕事がしたいとずっと思っていました。ランドスケープデザインの仕事をしている夫の助言もあり、二級建築士事務所サッコデザインオフィスを開設しました。会社名は、鈴木のSと章子(アキコ)のコでつけたサッコ。イタリア語で"袋"を意味するSacco(サッコ)という椅子があるのですが、それがとても好きでそこからも会社名として採用しました。

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色彩関連の仕事はいつからですか?

20代インテリアの専門学校で色の面白さに目覚め、色彩の先生のプライベートスクールにも通いました。色彩検定の前身の資格(ファッションカラーコーディネーター検定試験)の2級、3級はすぐ取ったのですが、1級は難易度やテスト対策もわからなく、また、ちょうど妊娠・出産の頃と重なったこともあり、受かることができませんでした。ただ、子育てする中でも、1級が取れないことがずーっと頭にあって、子育てが一段落したところで再チャレンジし、1級を取ることができました。そんな中、知り合いから色彩講師の話が舞い込んできました。建築のことがわかっていて、色彩のこともわかっている人を探しているとのことで。そこから、色彩講師をするために、色彩検定協会認定講師(UC級含む)の資格を取ることになりました。
その後、公社とご縁があり、2019年に公社職員向けの色彩講師を1年間務めることになりました。

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ご縁やタイミングがあって、公社の色彩講師や団地の外壁の色彩設計を行うことになるんですね。鈴木さんには、今までに、公社の団地「二宮団地」「小田原橘」「湯河原第3」「藤沢西部」の外壁塗装の色彩設計を手掛けていただいています。


2023年に完成した「藤沢西部」では、なんと、入居率が塗装前の83%から95%へとアップしていました。他の団地でも外壁塗装後は入居率がアップしていて、外観の印象も大切なんだと改めて感じました。この「藤沢西部」の外壁塗装について伺いたいと思います。

昭和40年代に建築家の黒川紀章氏が都市計画に携わった「湘南ライフタウン」の南側丘陸地にある「藤沢西部」は、周囲にURや分譲団地、高層マンションなどが群として立ち並んでいました。交通面ではJR東海道線の辻堂駅からバスと徒歩で15分前後というアクセスで、住みやすい環境というのが第一印象です。辻堂駅前には「テラスモール湘南」があり、若い方も住んでいて、新旧が交わった場所だとも感じました。
初めて「藤沢西部」へ行った時に、バス停から坂道があるのですが、坂道を上がるって心理的にしんどいですよね。その時に、どうしたらそんな気持ちを和らげることができるだろうと考えました。また、「藤沢西部」は5階建ての建物が19棟もある大規模団地なので、団地の圧をどうにか和らげたいなとも思いました。
そんな中、「藤沢西部」に隣接している「藤沢若葉幼稚園」を拝見し、外観がピンクで屋根が緑でかわいらしいなと感じました。また、公社が開発した区画内の分譲住宅「湘南スカイハイツ」の屋根部分が赤色で、この団地にもっと色があってもいいのでは?と感じました。

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開発当時昭和51年ごろの藤沢西部団地第2街区(分譲住宅)の物件パンフレット



今まで手がけていただいた団地と藤沢西部はまた、違った印象を受けましたが、意識した点などあれば教えてください。

藤沢西部以前に手掛けた物件はいくつかあるのですが、「湯河原第3」は歴史ある温泉地として落ち着いた感じで、「二宮団地」は他の棟の塗り替えが終わっていて、その繋がりを意識しました。「小田原橘」は住宅地の中に建つ団地で、公社ならではの団地にしたいという要望でした。小田原は景観条例が厳しくて、使える色が制限されていました。その中で、神奈川県住宅供給公社の「K」を取り入れた大胆な柄にしてみました(笑)

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「湯河原第3」(足柄下郡湯河原町)改修前(1枚目) 改修後(2枚目)

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「二宮団地 第4」(二宮町)改修前(1枚目) 改修後(2枚目)

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「二宮団地 第1」(二宮町)改修前(1枚目) 改修後(2枚目)

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「小田原橘」(小田原市)改修前(1枚目) 改修後(2枚目)

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小田原橘(小田原市)改修後



「藤沢西部」も藤沢市の景観条例を前提として行いました。丘陵地に19棟がランダムに並んでいて、高低差もある団地です。光の色と強さに着目し、東側は朝日から自然光の白い光に、西側面は夕陽に見られる橙から赤色の光になじむ配色にしました。さらに南方面の明度を北側面より相対的に高くして、光の強さとシンクロさせてみました。また暗くなりがちな北側の階段の外壁には小さな子どもでもわかりやすい4色のアクセントカラーを使用して、棟の目印としました。妻壁面には柔らかな多色の配色をすることでフラットな平面感をなくし、19棟の建物の圧迫感をなくしました。これらに関しては、冬でも暖かく感じる団地へと公社の方に評価していただきました。また、基礎部分に暗い色を置くことで地面からの跳ね返りの泥汚れが目立たなくなったと、公社の方にも喜んでもらえたようで、良かったです。
団地の名称をロゴとしてアクセントカラーで入れ、紫は藤沢市の花である「藤」から、青緑は近くを流れる引地川の「沢」からイメージしました。

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地域の特色も色彩に反映したのですね。それ以外にも天候を考慮した色彩とのことですが、一般的な考え方なのでしょうか?

土の色を考慮するのは定石ですが・・どうでしょうか?(笑)今回は空の色を意識し、試みました。この団地は桜の木が多く春には桜の花がキレイな団地ですが、冬になると色が少なくなり、また天気が悪い日なども暗い印象がありました。そこで、配色にコントラストを取り入れ暗さを防ぎ、上部には柔らかなホワイトを使ってすっきりとした印象にしました。団地は白っぽい色が多いと思うのですが、白が明るく見えない場合もあって、天候や季節によっては怖いイメージになる場合もあると感じるので、住んでいる方や地域の方に「ふっ」と気が軽くなる色や配色にしたいなと思いました。

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今後の夢はありますか?

多分、色から離れられないと思っています(笑)。仕事をやめようかなと思った時もありますが、やっぱり、それでも色のことを考えてしまっていました(笑)
団地の色彩設計は産みの苦しみはありますが、公社の団地や建物の色彩に今後も携われたらなと思っています。量産ができないのが残念ですが(笑)
あとは、色がもっと身近なものになって欲しいと思っています。子どもたちに「色って面白いよ!不思議だよ!」ということを伝える活動もしていきたいと思っています。
例えば、前に「自分の肌の色を作って」みようというワークショップをやったことがあって、子どもはもちろんですが、大人も楽しんでました(笑)。肌の色は「うすだいだい」という1色ではなく、よく観察すると白や黄色、緑っぽい色だったりと色んな色が混ざって見えます。小さいことかもしれませんが、色んな発見をして「色」を感じてほしいです。

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今回は「藤沢西部」の外壁塗装の色彩設計についてお話を伺いましたが、鈴木さんの手がけた「湯河原第3」では、2020年に一般社団法人日本塗料工業会が主催する「第23回環境色彩コンペティション グッド・ペインティング・カラー」(https://www.kanagawa-jk.or.jp/news/?id=860)改修部門にて最優秀賞を受賞しました。
偶然とは言え、幼いころから団地の色彩を意識していた鈴木さん。親指ほどのカラーチップを参考に、あの大きな団地の色を検討する秘訣は?の質問に「最後は感覚です(笑)」と答える鈴木さんの笑顔の奥にはきっと緻密な色彩設計があったはず。
話をしている中でも、団地愛が溢れていました。笑顔が素敵な鈴木さん。住んでいる方や地域の方にも笑顔で喜んでもらえる、そんな愛情をもって団地の色彩を考えていただけるのは公社としてもうれしいです。



今回の公社の賃貸

・藤沢西部共同住宅(藤沢市)
 https://www.kousha-chintai.com/danchi-intro/other/K119743000.php
・湯河原第3共同住宅(足柄下郡湯河原町)
 https://www.kousha-chintai.com/danchi-intro/other/K119742000.php
・二宮団地(二宮町)
 https://www.kousha-chintai.com/danchi-intro/other/K119642000.php
・小田原橘(小田原市)
 https://www.kousha-chintai.com/danchi-intro/other/K119711000.php

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Sacko Design Office - サッコデザインオフィス
鈴木章子
2002年 サッコデザインオフィス(sacko design office)設立
2008年 二級建築士事務所サッコデザインオフィス開設 (神奈川県知事登録10193号)
2016〜2021年 浅野工学専門学校 非常勤講師
2020年 東京服飾専門学校 非常勤講師
2022〜2024年 山脇美術専門学校 非常勤講師


資格

二級建築士(神奈川県登録番号第28082号)
インテリアコーディネーター(961740A)
色彩検定協会 1級色彩コーディネーター
色彩検定協会認定 色彩講師(UC級含む)



石井(総務広報課) 公社の事業や取組みなど、取材しレポートしてきます! 公社のホームページやFBもぜひご覧ください! 公社のホームページ https://www.kanagawa-jk.or.jp/ FB https://www.facebook.com/kanagawajk/