公社の賃貸ブログ

インタビュー:公社の外壁塗装「住んでいる方や地域の方の気持ちが和らぐ色彩を心掛けています」

2025.03.12

団地の風景

2024年の8月に外壁塗装工事が完成しリニューアルした「相模原田名」(相模原市中央区)。この色彩設計を手掛けたreGreen株式会社取締役で環境色彩プランナーの磯部金一さん。今回、鎌倉の仕事場にお邪魔し、「相模原田名」の色彩設計などなど、お話をお聞きしました。


Q.磯部さんの経歴を教えてください。

A.大学卒業後に祖父が設立した塗装工事請負会社に入社し、主に建築、土木、その他諸々の塗装の営業、施工管理などを行っていました。その後独立し、グラフィックやWEBデザイン制作等を行い、現在はreGreen株式会社にて、造園、外構、塗装、景画(自然の風景や景観)や設計、施工などを行っています。

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Q.外壁塗装・色彩計画に関わるきっかけを教えてください。

A.塗装会社の駆け出しの頃、ある倉庫の塗装工事の仕事を受けました。クライアントから「色は任せるよ」と言われ、困惑しました。その後も、幾度となく同様の依頼があり、このことをきっかけに色彩知識の必要性を感じました。
その頃(1990年代)は色彩計画や提案は施工業務の一貫であり、サービス的な扱いで有償のケースは多くはありませんでした。
その後、仕事の上で色との関わりは必然で切り離せないものだと感じましたが、美術大学に入り直すような時間も費用も無く、色彩に関しての学習機関を調べ始めました。
現在と異なりインターネットもない時代でなかなか見つからなかったのですが、そんなとき、新聞広告で色彩に関しての通信学習を見つけて申込みました。教材はヨハネス・イッテンの色彩論を中心とした手作業を伴うもので、与えられた課題に沿って色を自分で作って、考えながら塗っていくといった内容で、当時はこれが実戦に役立つものなのかと、半信半疑で取り組みました(笑)
今思えばこれが基礎学習となったのかもしれません。「環境色彩デザイン」という言葉を知ったのもこの頃で同名の書籍は私のバイブルです。

その後、しばらく業務経験を積んでいたところ、JC3共催のカラーコーディネーター養成講座が開講予定という情報を得ることができ、受講しました。
その頃、カラーコーディネーターという検定もなく職業とする方も周囲にはいませんでしたが、思えばバブル期を迎え時代が変わり始めていたのかもしれません。
ただ、その講座で環境色彩分野を志す受講者は私だけでした。
そして、その講座に関わる講師が参加する「公共の色彩を考える会」(より良い環境色彩のあり方を模索しつつ、問題提起や啓蒙活動をしていく会。活動期間1981年~2017年)を知り、後年に参加。

そこで幸運にも「環境色彩デザイン」著者の環境色彩計画家と知り合うことができ行政活動等のボランティアに参加し、景観計画のプロセスを体験しました。この活動が今の色彩計画に活かされていると感じています。

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Q.塗装前の「相模原田名」の印象はいかがでしたか?

A.第一印象は建物の色彩自体も経年劣化は進んでいるものの周囲にとても馴染んでいて、よく考えて作られているなと感じました。これを新たに外壁塗装するとなると、どうしようかと悩みました(笑)

初めて田名を訪れたとき、時間がとても穏やかに緩やかに流れている空間という印象でした。田名団地の周辺地域について調べ始め、田名向原遺跡を知り、併設された旧石器持代学習館で展示されている出土品などを興味深く鑑賞しました。
2万年前から現在にまで至る地層、旧石器の素材となる黒曜石や縄文式土器の色は深く複雑なものでした。発掘された住居跡や黒曜石などからこの地に竪穴式住居や集落をつくり暮らした人々への想像が現在の相模原田名へと結びつき色彩計画への着想・イメージ展開となりました。

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現場にも足を運んで、工事の進捗も確認します(中央のリュックを背負っているのが磯部さん)




Q.新しくなった外壁塗装はとても「相模原田名」に馴染んでいて、前より明るくなった印象です。今回の外壁塗装のコンセプトを教えてください。

A.コンセプトは『ここに積み重なる 人の営み』。ここで長く暮らす人・新しく暮らす人が共にこの先の時を過ごしていく舎(いえ)としてもらいたいと想いを込めました。
〈主要外壁色のもつ意味〉
グレーの部分:既存外壁に近い色にして、今まで慣れ親しんできたものを残しました。
イエロー・オレンジの部分:新たな明るさや暖かさ、活力を加えたいという気持ちです。
ブラウンの部分:この場所に長い時間をかけて積みあげてきたもの、変わらないものを表現しています。
アイボリーの部分:皆さんが孤立することなく、住民同士が繋がり結びつく明るい未来をイメージしました。

給水塔はこの団地のモノリス的シンボル「TaNa」で旧石器時代からこの地に暮らす人たちの思いとともに存在したので既存デザインを大きく変えていませんが、頭頂部の色彩はマジックアワーに時折見られるような夕焼空の色を表しています。
そんなサイドストーリーのようなものが湧き上がり今回のデザインにまとまりました。

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2021年の相模原田名団地



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2024年の外壁塗装後の相模原田名団地



Q.「相模原田名」の外壁塗装で難しかった点や苦労した点は?

A.相模原田名の規模(7棟240戸)の団地を手掛けるのは初めてでした。全面的にこちらにお任せしていただく形で、デザイン条件・制約フリーという前提からコンセプト提出という点で戸惑い悩んで約1ヶ月半が経過しました。その間に、現地調査も時間をかけてまとめました。
まず、既存の色彩が周囲と馴染んでいたため、このバランスをなるべく変えない2案を提出しました。その後、公社との打ち合わせの中で、思い切って動きのある方向にテイストを移し今回の案が生まれ採用されました。自分としては振り切った案でした(笑)

今思えば、塗装や施工の現場を知っていることもあって、職人さんにもわかりやすい色や配置など考えすぎたところもあります。
ただ、考えているときや悩んでいるときは、とても苦しいのですが、出来上がった時はそれを忘れるぐらいうれしいです。その感覚が好きなので、今後もこの仕事は続けていきたいですね。

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2021年の相模原田名団地



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2024年の外壁塗装後の相模原田名団地



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提案資料からも地域・周辺の環境や歴史などの現地調査の様子がうかがえます。

Q.「相模原田名」の外壁塗装の注目してほしいところは?

A.基本的には環境色彩の考えを基に計画し始めました。調査時期は冬季でしたが落葉樹越しの夏季の景色、様々な方向、位置からの見え方も想像し、最終的には想定以上にイメージ展開した提案でまとまりました。
ただ、観る方が自由に感じていただければと思います。

今後、経年変化により違った味わいが出てくると思います。例えば艶のある色だとその色は徐々に落ち着いた色になっていきます。そんな色の経過も愉しみにしていますので、今後も長期間フォローしていきたいと思います。

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2021年の相模原田名団地



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2024年の外壁塗装後の相模原田名団地



Q.工事前(令和5年7月末)の入居率は79.16%、現在(令和6年12月末)は85.83%となっています。これも外壁塗装の効果だと感じています。反響はありましたか?

A.先日、SNSのXに「カラーリングがおしゃれで好き」とつぶやいてくれている方がいて、そのような良い反応をいただけると嬉しいですね。
なにより現場での施工に携わっていただいた工事関係者の皆様に本計画をそのままのカタチにし、実物を見ることを叶えていただきましたことを感謝しています。



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2021年の相模原田名団地



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2024年の外壁塗装後の相模原田名団地



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集会所の外壁もリニューアルしました



Q.今後のビジョンをなどあれば教えてください。

A.景観関連事業に注力し、建物の塗装のみならずこれまで以上に樹木等との共生バランスを考えた計画や工事に視野を広げたいと考えています。また建物以外には観光遊覧船なども手掛けてみたいと思っています。 
団地の色彩計画も機会がありましたら是非、再度トライしてみたいと思います。

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今後の夢を熱く語る磯部さん。まだまだやりたいことがいっぱいです




終始、穏やかにお話される磯部さん。今回の色彩計画のために、田名向原遺跡や旧石器持代学習館などへも足を運び田名の歴史を学んで挑んでいただきました。とても勉強熱心でまだまだ色彩に関して追求されていました。
取材中に「相模原田名の給水塔は顔に見えますね?」「愛着わきますよね?」「かわいいですよね!」と意気投合!
計画しただけではなく、今後も「相模原田名」を見守っていただけると仰っていただけました。
これからも、よろしくお願いします。

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給水塔を見上げる磯部さん



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給水塔を見ているとかわいい顔に見えてきます




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reGreen株式会社

取締役 磯部 金一
2001年 優景計画株式会社 設立
2019年 優景計画株式会社・合同会社湘南彩苑 業務提携
2024年 reGreen株式会社 組織変更により設立

資格
2級建築施工管理技士
2級土木施工管理技士
1級カラーコーディネーター【環境色彩】
AFT色彩検定1級


今回の公社の賃貸

シンボルの給水塔がそびえたつ「相模原田名」(相模原市中央区/1975年竣工)
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