公社の賃貸ブログ

インタビュー公社の外壁塗装「地域の特色や歴史を知り、団地に"楽しい"を加える仕事」

2025.04.23

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団地の風景

公社は2023年度に「大和第2団地」(大和市)、2024年度に「小田原酒匂団地」(小田原市)で大規模修繕を行い、外壁もリニューアルしました。「小田原酒匂団地」は賃貸住宅パンフレット「公社の賃貸」2025年①号の表紙にもなりました。

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2団地ともにPOPでかわいい団地にリニューアルしました。この色彩設計はKEMURI DESIGN(ケムリデザイン)の和田義之さんが担当。今回、ご夫婦で営む小田原のnico cafeにお邪魔し、「大和第2団地」と「小田原酒匂団地」の色彩設計などなど、公私ともにパートナーでデザイナーの真帆さんと、2団地の色彩設計を担当した公社職員、そして、公社事業や取り組みについてアドバイスをいただいている団地共生プロデューサーの原大祐さんも同席し、お話をお聞きしました。原さんと和田さんは古くからの知り合い。原さんが企画した相武台団地の地域活性化プロジェクト「グリーンラウンジ・プロジェクト」に和田さんが『ひばりカフェ』の内装で参加したのは10年前。今回の色彩設計についても原さんよりアドバイスをいただいています。
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Q.和田さんの今までの経歴や普段のお仕事を教えてください

生まれは茨城県です。デザインに興味があり、高校卒業後上京し、グラフィックデザインの専門学校へ進みました。その後、造形物に興味が沸き、知り合いの紹介で、平塚市在住の彫刻家・藤田昭子さんに弟子入りしました。陶芸の勉強をしつつ、陶芸だけでは食べていけないので、フランス料理店でもアルバイトをしていました。その頃、雑誌で見たル・コルビュジエが設計したフランス東部にあるロンシャン礼拝堂を見て建築に興味を持ちました。その後、「けむりデザイン製作所」を立ち上げ、店舗のディスプレイの仕事などしながら、建築の勉強を始めました。とにかく若い頃は何かを造りたかったんです。ただ、作る事と仕事がなかなか結びつかなくて...。まだ、インターネットも普及していなかった時代で、電話帳でデザイン事務所などに電話をして営業をしていました。ただ、経験がなかったので、仕事によっては左官職人の方に建物の壁や床、土塀を習い、また、平塚競輪場からモニュメントのデザイン造形の仕事の依頼があったときは、人伝いに遊園地で造形物を作っている方を頼り、一から作り方を教えていただきました。仕事をしながら仕事を覚えていった感じですね。2008年に建築設計事務所「KEMURI DESIGN WORKS」を設立しました。店舗デザインの依頼が多く、そのうち、人の店舗のデザインだけでなく、自分の店舗デザインもしたくなって2009年にこの「nico cafe」を自分たちで造りました。ここは100年近い元建具屋さんを改装した建物で、そんなこともあり、古い建物を生かしたリノベーションデザインのご依頼が多いです。2015年には公社さんのグリーンラウンジ・プロジェ クトの第1期として誕生した『ひばりカフェ』の内装を行いました。

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Q.では、まず2023年にリニューアルした「大和第2」の塗装前の印象・感想は?外壁塗装のコンセプトは?注目してほしいところはどこですか?

一般的な団地という感じで、「ザ・昭和の団地」という印象でした。

コンセプトは「団地の優位性を引き出し若い世代にも選ばれる暮らしをつくる、笑顔でつなぐことのできる魅力的な賃貸物件」です。

周辺との調和を大切にしつつ歴史的な記憶や特徴を表現しました。

メインカラーには目の前にある川をイメージしたグリーンと大和市の花である野菊の白を。

妻側(つまがわ)(建物の側面のうち、棟に直角な面)には龍をモチーフとした「大和第2」のロゴマークを描きました。昔、ここの地名は「深見(ふかみ)(あざ)要石(かなめいし)」という名前だったようで、龍と密接な関係にあるとのこと。龍は洪水を起こす存在と言われていて、「要石」は龍の頭を押さえる石。「大和第2」の近くの神社ではご祭神として龍が祭られ、目の前を流れる境川が氾濫しないように鎮められています。ロゴには龍を、敷地内にはこの要石をイメージしたカラフルなスツールを設置しました。イチョウをイメージした黄蘗(きはだ)色、龍神をイメージした「龍神ブルー」、大和の紅葉をイメージした朱色のスツールです。この3種類の色に加え、引地川の千本桜をイメージした桜色の4色を各部屋のベランダの上裏に置きました。またエントランスエリアや中庭エリアの植栽が映えることを意識し、若い世代にも選ばれる清潔感のある外観を旨としました。

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Q.「大和第2」の外壁塗装で難しかった点や苦労した点を教えてください

ごく普通の住宅エリアのため、特徴を探したところ、周辺に比べ団地は高さがあり隣に流れる川との景色が印象的であることから色彩のイメージを作っていきました。 ベースは緑が映える白とし、遠目から見たときに人の目を引くように階段部分に色を使いました。遠目からの見え方は、目立ちすぎないように配慮し、ベランダの上裏に色を用い、近づいたときに立体感が出るようにしました。

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1枚目:リニューアル前、2枚目:リニューアル後

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Q.では、2024年に「大和第2」に続いてリニューアルした「小田原酒匂」の塗装前の印象・感想は?外壁塗装のコンセプトは?注目してほしいところはどこですか?

公園や駐車場に挟まれ、開放的ともいえますが、伸びた樹木や経年した建物群が寂しい印象でした。

コンセプトは、「歴史と自然が織りなす海辺の開放感」です。

酒匂川をイメージした「酒匂ブルー」と酒匂川の豊かな伏流水を使って作られる酒にちなんだ「酒米白」をメインカラーにしました。ベースは植栽の映える白とし、水辺の青、一面に広がる田んぼの緑⇒梅の緑ですね、お酒をイメージする山吹色、特産のみかん色を使い開放感を演出しながらも一方で宿場町の面影を残す落ち着いた色合いを計画しました。

色彩のイメージに加えロゴマークをデザインしました。棟がわかるよう各棟で棟番号をイラストで表現し、棟ごとに違う色のロゴマークになっていますので、楽しい団地になったと思います。そこに注目してほしいですね。

1号棟は梅の花が1輪、2号棟はみかんが2つ、3号棟はお米(お酒)が3粒、4号棟は酒匂川と海をイメージし4本の波と棟番号とリンクしたロゴデザインとなっています。

西湘バイパスからも見えるので、車から見てもらうのもいいかもしれませんね。

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1枚目:リニューアル前、2枚目:リニューアル後

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小田原市の花は梅。棟番号に合わせて1号棟は梅の花が1輪


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小田原市はみかんの栽培が盛んな地域。棟番号に合わせて2号棟はみかんが2つ

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地名の酒匂の酒をイメージして、原料のお米をモチーフに。棟番号に合わせて3号棟はお米が3粒

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近くに流れる酒匂川と西湘の海をイメージ。棟番号に合わせて4号棟は波を4本

Q.「小田原酒匂」の外壁塗装で難しかった点や苦労した点を教えてください

計画していた色と実際現場を見ながらの色合わせが難しかったところですが、結果的に楽しい生き生きとした団地に生まれかわったと思います。 CGでモデリングして色々な角度から見て想定しました。棟と棟が向き合ったときにどう見えるか?西湘バイパスから見るとどう見えるか?トータルで検討して色の配置を決めました。

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パースのイメージ動画をお借りしました。KEMURI DESIGN Facebookより

Q.リニューアル時期はそれぞれ違いますが、色彩設計は2団地同時期だったとのことですが、共通した特徴はありますか?反響はありましたか?

2団地とも共通していることは、昭和がそのまま残ってしまったような寂しい雰囲気の団地も、カラーを替え、植栽に手を加えるだけで住みたい建物になると思います。その地域らしい豊かな暮らしの景色をつくる出すことを念頭に置きました。愛着がわいて素敵な暮らしがイメージできるようなカラーを、その土地の歴史や自然をもとに提案しました。

2団地とも手書きのロゴになっているのも特徴です。公社側から今までとは違う団地のイメージでお願いしたいというオーダーもあり、案はたくさん作りました(笑)

様々な方から感想をいただきました。団地に興味ある方が結構いるんだなぁと感じました。そして、皆さん「楽しい団地」を期待していると感じました。

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「意外に団地に興味を持ってる方って結構いるんですよね」と原さん。「楽しい団地」の話でどんどんアイディアが生まれてきます。

Q.今後のビジョンをなどあれば教えてください

今回担当してみて、団地をもっと「楽しい団地」にしたいと思いました。

例えば、団地に付属した公園の遊具や植栽を環境から楽しく変えたりすれば、もっと楽しく、住みたくなるのでは?と感じ、公園や公園の遊具のデザインをやってみたいなと。ただ、公園で遊ぶ子どもも減っているので、公園もアップデートしたほうがいいと考えています。高齢者向けの遊具があればいいかな?とか。アイディアはどんどん沸いてきます(笑)

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nico cafeでは、人気メニューの鶏の唐揚げをいただきました。鶏の部位や味付けに和田さんのこだわりが詰まっているとのこと。ただし、レシピはナイショのようです。1階はカフェ、2階は真帆さんがデザインした洋服や小物などのショップになっています。
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ランチメニューの「ごはんプレート」(味噌汁付)は数種類から選べる。今回はサクサク唐揚げご飯(1枚目)と元祖サクサク梅酢唐揚げご飯(2枚目)をいただきました。

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小田原市の歴史的風致形成建造物に指定されている「nico cafe

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お二人の"楽しい"が詰まった「nico cafe」。最後はお二人の笑顔をお店の前でいただきました。

お話の中では「楽しい」という言葉がちらほら。今回の団地の色彩もカラフルで見ていて「楽しい」気持ちになります。住んでいる方や地域の方にも「楽しい」と思ってもらえたらうれしいです。その土地や地域、地名の由来や歴史を知り、今につながるストーリーを持たせる色彩についての発想にロマンを感じました。和田さんが考える「楽しい団地」も期待しています!

こぼれ話:社名の「ケムリデザイン」の由来は、歌人で劇作家の寺山修司の詩に出てくる『けむり』の言葉が気に入り、社名に。『けむり』は、変化や幻想の象徴であり、柔軟な考え方を表現しています。小田原に来たばかりの頃、作業場がなく山奥で発電機を使い、ゲリラ的にものづくりをしていました。実体があるのに、実体がない。そんな状態が面白いと思い、社名の由来に込めています。


KEMURI DESIGN(ケムリデザイン)

〒250-0011 神奈川県小田原市栄町2-15-26 nico cafe内 
代表:和田義之

資格
二級建築士(神奈川県知事登録 第32769号)

KEMURI DESIGN
Facebook https://www.facebook.com/kemuridesign

nico cafe 
Instagram https://www.instagram.com/nico_cafe/



関連サイト

インタビュー:公社の外壁塗装「住んでいる方や地域の方の気持ちが和らぐ色彩を心掛けています」
サッコデザインオフィス「藤沢西部」(2024.04.15)
https://www.kousha-chintai.com/blog/landscape/-2024vol1.php

インタビュー:公社の外壁塗装「住んでいる方や地域の方の気持ちが和らぐ色彩を心掛けています」reGreen株式会社「相模原田名」(2025.03.12)
https://www.kousha-chintai.com/blog/landscape/post-74.php

Kosha33 住まいとくらし~団地の外装リニューアル①~(2024.04.15)
https://www.kosha33.com/life/danchi-column/post-78.php

住まいとくらし~団地の外装リニューアル②~(2024.05.15)
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Kosha33 住まいとくらし~団地の外装リニューアル③~(2025.03.17)https://www.kosha33.com/life/danchi-column/post-146.php

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